疾患について
自閉スペクトラム症:Autism Spectrum Disorder(ASD)
ASDの方は、他の人の言動をその場の状況に合わせて理解することが苦手で、人との関わりで困難を感じるという特徴があります。
自分の興味があることには素直に取り組み驚くべき力を発揮することもありますが、興味のないことに取り組むことが極端に苦手です。感覚の特徴(極端な過敏さや鈍感さ)もあります。
幼少期はマイペースな過ごしぶりが目立ち、集団活動場面で戸惑いを感じる事が多く、癇癪やパニックが生じることもあります。思春期に入る頃から、周囲との馴染めなさを自覚することが増え、不安や気分の落ち込み、意欲の低下が出現することもあります。
これらの行動上の特徴は、脳機能のアンバランスさから生じるもので、その人が自分勝手だとか不真面目だというわけではありません。しかし、これらの言動は周囲から誤解を受けることが多く、生きづらさを感じる事も少なくないようです。
ASDの方の行動の背景にあるこれらの特性を、周囲が理解することが手助けになります。また必要に応じて薬物療法を行う場合もあります。
注意欠如・多動症:Attention Deficit Hyperactivity Disorder(ADHD)
ADHDは、忘れ物・なくしものが多い、うっかりミスが多い、多動でじっとしていることや順番を待つことが苦手などの特徴があります。また、学習の問題(読み・書き・計算)が併存している場合も多く、学業面での困り感は高いようです。
これらは、その人の性格や不真面目さからくるものではなく、注意と行動の制御に関する脳機能の障害のためにおこります。年齢とともに多動性は改善する場合が多いと言われていますが、不注意の症状が続く場合が多いといわれています。
思春期前後から、自分でもその特徴を自覚し、悩む場合もあります。一方で積極性が高く、物おじしないなど、強みとなる面もたくさんあります。
服薬治療によって制御機能が高まり行動上の問題は減少することが多いですが、注意散漫になりにくい環境を作ってあげたり、本人の強みに目を向けること、周囲が本人の困り感に気づくことも大きな支えになるようです。
不安障害(分離不安、社交不安、小児の過剰不安、恐怖症)
不安は誰にでもあるものですが、不安が強すぎて日常生活に影響が出てしまう状態担った場合、不安障害と診断されることがあります。
年齢によって不安は様々で、幼稚園から小学校低学年は(母子)分離不安が多く、小学校中学年から中学生にかけては社交不安(人前に出ることに緊張する、人目を必要以上に気にする)が多いようです。
不安は人間にとっては必要なアラームですから、完全に不安をなくすことはできませんが、極端な不安はコントロールできるようになると、生活が随分楽になります。まず、不安の仕組みや対処法を知ることが大事で、必要に応じて薬物療法なども行います。
パニック障害
パニック障害は不安障害に近いものですが、自分が死んでしまうような不安感や恐怖感に襲われてしまい、手の震えや呼吸困難が生じるものです。
電車の中、エレベーターの中など閉塞的な場所で生じることもありますし、自宅で生じることもあります。
パニックが生じる仕組みを知り、パニックの前兆を把握できるようになると、リラクゼーション法などで対処できるようになります。また薬物療法によって症状が改善することもあります。
強迫性障害
強迫性障害は、特定の考えが意図せずに繰り返し浮かんできて(強迫思考)、それに伴う不安を振り払うために何らかの行動を繰り返し行ってしまう状態(強迫行動)に陥ってしまう疾患です。
手の汚れが気になり繰り返し手を洗ってしまう、鍵をかけたかどうか不安になり何度も確認を行ってしまうなどです。難しいのは、強迫行動で一時的に不安は低下しますが、繰り返せば繰り返すほど不安が続き、行動が止まらなくなるという悪循環に陥ってしまうことです。
このような状態のために、生活に支障が出てきてしまうことで診断ができます。繰り返し生じる極端な不安に対しては薬物療法を優先する場合もありますが、強迫の仕組みを知ること、その上で強迫に対処する方法を身につけることが重要となります。
うつ病(気分障害)
うつ病は気分の落ち込みや意欲の低下、不眠などの症状が一日中、一定期間生じるものをいいます。お子さんの場合は明確な気分の落ち込みとして観察されにくく、イライラした気分などが主体となることもあります。
治療としては休養をすることが第一ですが、環境調節を行い負担を減らすことも効果的です。うつ病になる方は真面目で責任感が強く、休むことが苦手な方も少なくありません。休養しても改善のない場合は、薬物療法を行います。
統合失調症
統合失調症は100人に1人程度に出現する精神疾患で、思春期に症状が出現することが多いと指摘されています。
ドーパミンという物質が脳内で過剰に分泌されることによって症状が出現すると考えられていて、幻聴や妄想などの症状が有名です。しかし初期には、急に仕事の能率や成績が低下する、急に他者との交流を避け引きこもりがちとなる、周囲を極端に警戒するなどの前兆(前駆症状)があることも指摘されています。
治療としては脳内のドーパミンを調節する薬物を使用します。症状が再発することもあるので、病気のことを十分に理解し、根気よく治療を続けていく必要があります。